今回からは、さきに紹介した6点の作(「手とカード」シリーズ)について、
さらに掘り下げて見ていきましょう。 少し文章が長くなりますが、その中から参考になることが一つでもあって、 今後の制作に役立てば幸いです。 まず最初のこの作品は、二本の指でカードを挟み込むように支えています。 手が画面左下からぬっと立ち上がって、 大きく広がろう、膨らまそうとする動きで、 拡張感・膨張感の強いポーズをなっています。 手とカードとの関わらせ方=アイデアが明解で、 無駄がなく、力強い作品になっています。 構造的に一番の特徴になっているのが、 中指とカード、それから親指へと連続した形が、 弓なりにしなりながら丸まって、 内側に大きな空間を作っていることです。(fig1-1) また、このポーズは手のひらをいっぱいに広げて、 内側を見せていますが、 中指と薬指の2本が、外側から回り込んできて、 立体的な印象を演出しています。(fig.1-2) ただこの作品では、手のひらと2本の指との明るさに差が弱いので、 面の向きの違いや距離感が出ていないのが惜しまれます。 全体の形をシルエットとして見てみると、内側から外に向けて 大きく広がろうとしていることがわかります。(fig.1-3) つまり「図(手とカード)」が「地(背景)」を 押し広げようとする形です。 このような「図と地」の関係が構図を考える上でとても大切です。 上右図はエスキース(アイデアスケッチ)の一つとして、 背景部を黒く塗りつぶしたときの効果を示したものです。 そうすると、「図と地」の関係、またポーズの動きの印象を 客観的に判断できることがあるのでお勧めできます。 また、逆に図の方を塗りつぶしてみるのも同様に有効です。 全体の形がシルエットになるように塗りつぶしてみたとき、 設定したポーズや、手とモチーフとの関わり方が分かりやすいようなら、 それは非常に描きやすいはずです。 上右図のエスキースを見ると人差し指が、 画面枠に触れていることが分かります。 もちろんこれは偶然でなく、作者が意図したものです。 B3画用紙の中央にA3画面枠をとるという、今回のメソッドでは、 このように図の配置に、神経を使った発想をよく見受けます。 エスキースをするときは、 画面枠の比率は正確でなければ意味がありません。 本校の学生は、ハガキなどの厚紙に、 画面の比率を正確に縮小して切り抜いたものを定規にして、 エスキース用の画面枠を描いて、 その枠内にアイデアスケッチをしています。 紙のサイズのB判とA判はともに√2矩形で、 比率は1:1.414(逆数0.707)です。 最後に、この作品を成功させている大きな要因を解説します。 fig.1-4で示すように、このポーズでは、 手のひらの面とカードの面が ともに右方向に傾斜しています。 この2つの面の響き合いがポイントです。 2つの面は平行ではなく、やや奥に狭まっていて、 奥行き感を強調しています。 また2つの面が若干ねじれるように、少しずらして配置することで、 奥行き感はより強く豊かになっています。 このように三次元の面の構成について、よく配慮されていながら、 fig.1-5で示すように、二次元の傾斜角度も、 全体の力強い伸張を意識して注意深く選ばれています。 それらの配慮が、スケール感を 高める演出として効果を上げています。 次回の作品は、今回とは対照的に 非常に構築的な性格が強い作品②を解説します。 byヨゾコブ
by yozokobu
| 2010-05-16 10:01
| ステップアップ・デッサン
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